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大阪地方裁判所 昭和31年(レ)10号 判決

控訴人 服藤泰敏

被控訴人 更生会社大阪伸鋼工業株式会社管財人 米田恒治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「仮りに被控訴人主張の貸金があるとしても控訴人は昭和二十八年六月頃訴外大阪伸鋼工業株式会社(以下更生会社と称す)の為めに数回に亘り手形の割引を紹介しその中更生会社が昭和二十八年六月十三日富士興産株式会社に宛て振出した金額四十三万六千円支払期日同年九月十三目支払地並びに振出地大阪市支払場所株式会社大和銀行川口支店たる約束手形一通を不渡としたとき控訴人は手形割引の紹介者としての責任上当時の手形所持人佐藤広市から右手形を買戻し所待人となつたが更生会社は当時破産状態にあつたので同年九月末頃右手形債権と本訴債務とを対等額で相殺する旨の意思表示をなしその他は支払を得ないまゝ今日に至つたものである仮りに右相殺なしとするも本訴で相殺する。」と述べ、被控訴代理人において「控訴人の抗弁は否認する。仮りに控訴人主張の反対債権があるとしても、更生債権届出期限である昭和二十九年一月三十一日経過後になされた相殺はその効力を生じない」と述べたほかいずれも原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は甲第一、第二号証を提出し、原審における証人松田晃の証言を援用し、乙第一号証の成立を認めると述べ、控訴代理人は乙第一号証を提出し、当審における控訴本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

成立に争いのない甲第一号証及び原審における証人松田晃の証言を綜合すると、更生会社は昭和二十八年六月十六日頃控訴人に金額百万円の小切手一通を振出し交付してその割引を求めたところ、控訴人からその手数料として金一万円を差引き更生会社に現金九十二万円とその不足額支払の為控訴人振出の金額七万円の小切手一通が交付されその後更生会社振出の小切手は決済されたが本件小切手は支払を拒絶せられたので右小切手金を以て消費貸借の目的となした事実を認めることができ、当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他にこれを左右するに足る証拠はない。

そこで控訴人の相殺の抗弁につき按ずるに、成立に争いのない乙第一号証に控訴本人尋問の結果を綜合すると、更生会社は控訴人主張の約束手形一通(金額四十三万六千円)を振出し控訴人の斡旋により訴外佐藤広市から金融をえたが右手形は不渡となつたので、控訴人は仲介者としての責任上右手形金を同訴外人に支払つて該手形の裏書譲渡を受け現にこれを所持している事実を認めることができるから、控訴人は更生会社に対し金四十三万六千円の反対債権を有するといわねばならない。

しかして控訴人は昭和二十八年九月末頃、仮りに然らずとするも本訴において右手形債権を以て本件債務と対等額で相殺したと主張するが手形債権を自動債権として相殺をなす場合には手形の受戻証券たる性質上原則として該手形の交付を要し、たゞ本件の如く手形債権が受働債権額を超過するときは、手形金の一部支払の場合に準じ手形の交付は必要としないがこの場合でも手形の呈示は必要であると解すべきところ控訴人が昭和二十八年九月末頃右手形を呈示して相殺の意思表示をしたとの事実を認めるに足る証拠なく、他方更生会社は同年十二月七日大阪地方裁判所において更生手続開始の決定をうけ更生債権届出期限を昭和二十九年一月三十一日と定められたこと成立に争いのない甲第二号証により明かであるところ、会社更生法第百六十二条によれば更生債権者が更生手続によらないで相殺をすることができるのは更生債権届出期間内に限られているから右期間経過後である本訴口頭弁論期日になされた相殺の意思表示はその効力を生じないものというべく結局控訴人の抗弁は採用することができない。

そうとすれば控訴人は被控訴人に対し金七万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三十年六月六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 松浦豊久 藤井正雄)

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